剣岳

 剣岳は小説や映画の舞台となった山です。1977年に新田次郎の小説「剣岳 点の記」が出版され、これを原作とした映画が2009年6月20日に劇場公開されました。公開12日目となる7月1日に早くも観客動員数が100万人を突破し、その後ロングランを記録するとともに、アカデミー賞の栄冠に輝きました。
 映画好きでもない私が公開3日後の6月23日に映画館に足を運んだのが今でも不思議です。木村大作監督が日本全国47都道府県を宣伝巡回したこと等により、前評判が高かったことによるのではないかと回想します。

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 点とは、地図を制作するための測量の基準として設置する三角点のことです。20世紀初頭、剣岳周辺は三角点整備が未済のまま残っていました。この映画は、剣岳山頂ならびにその周辺に三角点を設置するための、陸軍参謀本部陸地測量部(国土交通省国土地理院の前身)測量隊の奮闘を描いた映画です。
 となりの立山が8世紀初頭に開山されたのに対して剣岳が20世紀に至っても開山されなかった要因の一つとして、立山信仰の中で、剣岳が立山地獄谷とともに地獄の世界に分類されていたことがあるとされています。

 この映画では、陸軍と日本山岳会の先陣争いの対立構図としてドラマが展開します。陸地測量部が前人未踏のはずの山頂に先に立ったものの、修験者の遺品を発見し、最初に登頂したのは陸軍でも日本山岳会でもなく、はるか昔の修験者であったことが判明します。

 この映画の迫力の源は、以下のような拘りにあると思います。
①コンピューターグラフィックスを用いず監督や出演者等が現地に登って厳しい気象の中で撮影
②山岳風景にマッチしたバロック音楽を仙台フィルハーモニー管弦楽団の生演奏により収録
③極力時系列順に撮影を進め俳優が本人になりきれるような環境を醸成

キレットより怖かったカニのタテ這い・ヨコ這い

 私が日本百名山21座目として剣岳に登頂したのは1980年頃で、薬師岳→立山→剣岳のコースをたどりました。記憶は忘却の彼方ですが、印象に残っているのは、剣岳山頂直下のカニのタテ這い・ヨコ這いでの恐怖感です。日本百名山を全山登った中で、最もスリリングな場所でした。次に難所と感じたのは五竜岳から鹿島槍ヶ岳へ向かう途中の八峰キレットです。
 その日の天候等の要因により感じ方は変わると思いますが、カニのヨコばい・タテばいは、夏の晴天下でも怖いところでした。